喋々喃々
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著者:小川 糸 |
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懐かしい和菓子の包装紙を思わせる表紙カバーのテクスチャー。切り絵の蝶々が飛んでいる。そんなさり気なく優雅で奥ゆかしい装丁が嬉しい。そして腰巻には【喋々喃々】男女がうちとけて小声で楽しげに語りあう様子。とあります。
谷中でアンティークのきもの屋をひとりで切り回す栞。ある日訪れた「特別な筒の中を通り抜けて来たような」声の男性客、春一郎と故意になり静かにゆったりとしたつき合いが始まる。店内で茶を点てる様子など、古着のきものと抹茶の芳香が溶け合うであろうその匂いをイメージしてみる。
これだけ料理を美味しく食べる場面が出て来ると、こっちまで幸せな気分になる。
栞の離婚した両親や妹たちの色んな問題が見え隠れする。そして元恋人の葉書を心待ちしていた栞のもとを訪ねて来たその人とは。やがて春一郎との不倫愛につのる想いと女心が季節の風物詩に例えてひしひしと伝わってきます。
まどかさんやイッセイさんとのふれあいも楽しい。まるで自分がこの界隈の住人になったみたいだ。
前作『食堂かたつむり』を読んだ時にも思ったのですが、ひとつひとつの言葉の選び方、言い回しの心地よさ、そして小道具のセンスとこの著者の感性には非凡なものが見受けられます。
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